エッセイ

赤児にモツ煮込みを喰わせるな

投稿日:

余計なお世話はしない

Treat others as you would like them to treat you.

己れの欲する所を人に施せ
自分がしてもらいたいように人にもしなさい
あなたがしてもらいたいようにしなさい

この一群のコトバは、golden rule(黄金律)と云われ、巷間の成功法則を唱える人たちの金科玉条となっているものです。
*原典『さらば凡ての人に為られんと思ふことは、人にも亦その如くせよ』 [マタイ傳福音書7:12]

これは自分が善いと思ってしていることでも、施されたほうもまた必ずしも『ありがたや~』となるわけではありません。

なぜなら、『己れの欲する所=自分がして欲しいことを人にするということは、つまり自分の価値観を基準にするわけだから、押し売り以外のなにものでもないからです。

一方、東洋の黄金律である論語のいうところの
己れの欲せざる所は人に施す勿れ
も同様で、論語読み人は何もしないというわけではなく、自分のいやなことは【 あ・え・て 】人にもするな、ということを取り上げただけのことです。

論語読み人たちも善人を目指しているわけで、裏を返せば、自分が善いと思うことは人にもして【 あ・げ・る 】というスタンスなのです。ですから、この両者は積極か消極かの違いだけで、自分を基準にして善い悪いを判断していることに変わりはないのです。

指が月をさすとき、愚者は指を見る』がごとく、自分の価値観を基準に実践すれば偽善者になってしまうのです。

せっかくの金言も台無しではありませんか。

自分が善かれと思うことも、嫌だと思うことも、相手のことを考えてから、するしないを判断すべきではなかろうか。
と、考えるのであります。

本当に相手はそれを必要としているのだろうか

相手が本当に必要としていることだけをする

己の基準で善し悪しを判断しないことが大切なんじゃないか。もっといえば、なんでもかんでも善し悪しに分類することはないんじゃないか、と俺は思います。

オヤジだからといって誰もが『もつ煮込み』を好むわけではない。

俺は好き嫌いがそんなに激しい方ではないのですが、レバーとかもつとか、オヤジたちが好みそうな臓物系が苦手です。

仕事で東京下町のとある会社にお邪魔していたときのこと。
そこは、映画『男はつらいよフーテンの寅さん』に出てくるタコ社長が経営しているような、まさしくあんな感じのこじんまりとした中小企業です。社長と従業員がとっても仲が良くて家族的な雰囲気です。

一階が事務所、二階が住まいになっていて社長の高齢のご両親が住んでいます。ご両親は仕事の手伝いもしますし、10時と3時にはお茶とお菓子をふるまいながら従業員たちとおしゃべりを楽しみます。

お昼になれば手作りのご飯をごちそうしてくださったりして、アットホームな雰囲気にいつもほのぼのとした気持ちになっていたものです。

3時のおやつの時間、みんなと談笑していたときのこと。隣ン家のおばちゃんが、社長の好物『もつ煮込み』を持ってきてくれました。巨大なタッパにごっそりと。ついでにぼくの分もと弁当箱サイズのタッパにぎっしりと。

「たっくさんつくっちゃったからサア、ホラみんなで食べて食べて~。青樹さんの分もあるからサ、ホラこれお家帰ってから食べて~、ネ

いつも出入りしているから隣のおばちゃんとは顔見知り、手相を観てあげたこともあってその御礼の気持ちだったのかも知れません。

「(ぅあ)ありがとうございます」( )内は心の声

普段は満面の笑みで感謝の意を表する俺ですが、自分の気持に正直すぎるものだから、作り笑顔さえできなくて、上っ面だけの心のこもってない言葉で御礼をいいました。(帰り際、社長に俺の分を差し上げました。)

さあ、ここからが核心です。

あなたは、こういうシチュエーションの場合どうしますか?
俺・おばちゃん、それぞれの立場になってチョッと考えてみてください。

.

.

.

その日お家に帰ってからいろいろ考えました。
それで、俺の対応はよくなかったなぁと反省しました。あの時おばちゃんに正直に「もつや内蔵系食べられないんですぅ~」と言えば良かったなぁと。(もちろん、最初に感謝の気持ちを述べてからです。)

いやいやいや、それ違うでしょ!
って、三角メガネをかけた教育ママゴンみたいなオバサマから思いっきり否定されちゃうかもしれません。

でも、おばちゃんに「もつ煮込み苦手」と伝えておかなければ、またもつ煮込みギフトが届くかもしれません。
その度におばちゃんに内緒で、こそこそと社長に差し上げなければならないわけで。
社長も常識人だから、おばちゃんを傷つけたくないから、「青樹さんもつ煮込み嫌いなんだってサ』と言うことも出来ないわけで。

おまえ、なんでそんな些細なことで悩んでいるんだ?自分が嫌いだからって、人さまの好意をふみにじっていいわきゃないだろ!?ありがたくいただくのが当たり前だろ、それでなきゃ失礼だろ、この非国民が!

俺の心の中に住む世間さまが、ダミ声で『あたりまえあたりまえ』って叫んでいます。この声で、世間体を気にする自分がまた目覚めてしまうのです。

一方、世間さまのでかい声と違って、上品で落ち着きのある静かな声の良心さまは、こうささやくんです。

「外面ばかり気にしていないで、内面をもっと意識してくださいね」

「他人によく見せよう、他人からよく思われよう、良い人であろうと思わなくてもいいんですよ」

「常識や信念は人の数ほどあるんですよ」

「他人の常識や信念にふりまわされないでくださいね」

「青樹さんらくし生きていいんですよ」

そうです、俺は今まで世間体を気にして生きてきたんです。
だから他人からコントロールされても気づいていなかったんです。
問題をつくっているのは自分だと気が付きました。
すべては自分に責任があります。不幸になるのも幸福になるのも。

ここで、もつ煮込みおばちゃんの立場になってみます。

「わぉ!おばちゃ~ん、ありがとうございますぅ~!すげーボリュームたっぷり!俺、高校時代、ドカベンで早弁してたの思いだしましたよ~、でも俺、もつ煮込み食べられないんっスよ、昔からレバだの内臓系苦手でぇ(ニコニコ)でも、うちのカミさん、オヤジみたいだから、もつ大好きなんで持って帰ったらきっと喜びますよ!ありがとうございます。頂いていきます!」

こんなふうに、もつ煮込みが苦手だということを正直に伝えられたら……

「そっか、青樹さんって内蔵系苦手なんだぁ~、じゃあ何が好きなのかしら?何が食べたい?」

「おばちゃん!」

「えッ……」(絶句)

「あははははははは、いやいやいや、ジョークジョーク。俺が好きなのは、カレーとハンバーグ。あとは炊き込みご飯かな?」

(おばちゃん一瞬淋しそうな表情になるがまた大口あけて喋りだす)

「あらおこちゃまみたいね、こんどハンバーグ作ってあげるわね、男の胃袋ガッツリつかむおいしいハンバーグよ~、楽しみにしといて~。あらあらこんな時間、ポチに餌やんなくちゃ。今度いつ来るの?」

なあんて、こんな感じに明るいほうへ明るいほうへ展開していったことと思います。

あの頃をなつかしく思い出しながら、自然体でいこう、ってあらためて気付かされました。

スポンサードリンク

スポンサードリンク

-エッセイ

Copyright© 青樹謙慈|アオキケンヂ , 2019 All Rights Reserved.