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量子力学が語る世界像/和田純夫【ガイド・目次】

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量子力学が語る世界像:重なり合う複数の過去と未来 (ブルーバックス) 

ミクロの世界とマクロの宇宙をつなぐ新しい考え方
量子力学を全宇宙にまで広げて考えることがはたして可能でしょうか? その場合、人間の意識でさえ原子や電子のふるまいの1つでしかないとすれば、まったく新しい世界像が現れてくると著者はうったえます。そこでは、まるでSFのような並行世界(パラレルワールド)が同時進行し、複数の過去や未来が重なり合ってくるのです。しかし、それでいて、私たちの人生は確かに一通りしかなく、突然別の世界に迷いこんでしまうこともありません。大胆な発想の転換によってこの摩訶不思議な世界を見事に説明する、新しい量子力学の考え方をわかりやすく解説します。

著者:和田純夫(わだすみお)
1949年千葉県生まれ。東京大学物理学科卒業。理学博士。文部省研究奨励員、ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所研究員、ボローニャ大学国立原子物理学研究所研究員を経て、東京大学教養学部専任講師。専門は素粒子物理学だが、最近は宇宙論を素粒子物理学的見地から研究。特に宇宙の誕生と量子力学との関連について考え、多くの啓蒙的な本、雑誌記事を書く。1986年から87年にかけては、ケンブリッジ大学のホーキング教授のグループで研究。
著書に『ビッグバン以前の宇宙』(岩波書店)、『もっとわかる宇宙論』(日本実業出版)などがある。

はじめに

「量子力学」とは、今世紀初頭、原子のふるまいをつかさどっている自然法則として発見された理論である。ボーア、シュレディンガー、ハイゼンベルグ、ボルン、アインシュタインなど、多くの人の貢献があった。

その当時、実験技術が発達し、原子、電子、原子核といったミクロの世界のようすがわかってきた。それは、従来の目で見える物体(マクロの世界)に対するわれわれの常識とは、まったく異なるものだった。そして新しい学問、「量子力学」が登場する。
しかし登場といっても、完全な形ではなかった。計算の手順を与えてくれるという点では問題はなかったが、そもそもこの新理論によれば、電子とか原子をどのようなものとして把握すればいいのか、その概念的な部分の説明がはっきりしていなかった。従来の物質観を捨て去らなければならないことははっきりしていたが、だからといって新たにどのような物質観をもちだせばいいのか、多くのヒントはあったが統一的な認識ができていなかった。

いうまでもないが、われわれが日常あつかっているマクロな物体でさえ、電子や原子から構成されている。そして電子や原子に対して新しい物質観が必要だということになれば、マクロな物体に対しても、それと同一の、まったく新しい物質観が道用されなければならないはずだ。しかしそれは、われわれが日常生活で直観的に感じている物質観と辻褄があうのだろうか。このような問題を考えていこうというのが、この本の趣旨である。

考えることがきらいでない人ならだれにでもわかっていただけるように、最初は原子の世界の説明からはじめる。その次に、なぜ新しい理論が必要となったのか、そして、新たに登場した量子力学とはどんな理論なのかを、直観的に解説する。

それからが本書の中心部分である。
量子力学では、この自然界をどのような枠組でとらえるべきなのかという議論を、量子力学の解釈問題という。そして量子力学の誕生以来、さまざまな理論、つまり解釈論が展開されたが、この本で中心に説明するのは、「多世界解釈」というものである。

これは、量子力学をミクロの世界の理論として限定せず、日常の世界、ひいては全宇宙にまで広げて考えたとき、量子力学はどのように解釈されるべきかという観点からみちびかれた考え方である。今世紀中頃、エベレットという人により提唱されてからさまざまな議論がなされたが、とくに最近、宇宙論が活発になるとともに、宇宙全体を量子力学的観点から見る必要性がでてきふたたび注目されるようになった。

この考え方によれば、世界は一つではない。電子が”ある”場所にある世界、その「同じ」電子が別のある場所にある世界、さらに、それともちがう場所にある世界等々、無数の世界が共存している。そして少なくとも原理的には、あなたが今、この本を読んでいる世界、眠くなって本を落としてしまった世界などが共存している。そして共存している世界の中には、互いに影響しあうものも、しあわないものもある。その区別をはっきりさせることで、量子力学の表す世界像が見えてくるというのが、多世界解釈である。

世界が無数に共存しているなどというと、SF的な印象をもつ人もいるようで、単にそれだけの理由でこの理論に違和感をもつ人もいた。しかしこれは、量子力学を虚心坦懐に見つめ、そのまま受け入れようとすれば自然にでてくる、単純明快な考え方である。そして、量子力学という自然法則を全宇宙にまで広げることが可能な、現存する唯一の考え方だと、筆者には思える。

量子力学の解釈論については、ここ数十年多くの議論がなされてきた。多世界解釈も、多くは誤解にもとづく批判をよく受けた。しかしこの本ではあまり細かいことにはふれず、量子力学登場当時の考え方(この考え方が発展するうえでの中心地となった都市の名をとって、「コペンハーゲン解釈」とよばれる)とその問題点、そしてそれを、多世界解釈ではどのように解決したのか、もっと謙虚ないい方をすれば、どのような方向で解決しようとしているのかを中心に議論を進める。

多世界解釈に対する過去の論争点、あるいは今後の問題点については、第1章、第2章でまとめて解説する。

コペンハーゲン解釈では、あなたが本を読んでいる世界と、寝ている世界が共存しているなどという、一見奇妙なことはいわない。だからといって、それが自然な考え方だというわけではない。共存などしていると不都合なことが起こりそうなので、「片方を無理やり捨ててしまう」というのが、その基本方針だからである。

本文でくわしく説明するが、この無理やり捨ててしまうという操作を「波の収縮」とよんでいる。そしてこれを受け入れるかどうか、受け入れるとしたら、この操作をどのような意味でとらえるのかというのが、量子力学の論争における中心的な話題だった。

この本の中心テーマである多世界解釈では、この「無理やり捨てる」というやり方は取らない。そのかわりに、多くの世界が共存していても、何も不都合は起きないという主張をする。世界の共存など一見奇妙に見えるが、それを素直にそのまま受け入れて議論を進めようという立場である。

世界の共存は別としても、量子力学の世界は、日常の感覚とはかけはなれた摩訶不思議な世界に見える。しかしそう感じるのは、われわれが現実をある特殊な角度からしか見ていないためである部分が多い。人間の意識でさえ、電子のふるまいと同じレベルの自然現象の一つでしかないという立場に立てば、 まったく新しい世界像が、それでいてわれわれの常識とも辻褄があう世界像が現れるというのが、本書の主張である。

まだ論争は続いており、世界中の専門家が多世界解釈で納得しているというわけではないが、最近の宇宙論の発展ともあいまって、支持者が急速に広まっている考え方である。読者のみなさんにも、量子力学の初歩を学びながら、それを宇宙全体から見た物質観と結びつけるためにはどのように解釈すればいいのか、一緒に考えていただければ光栄である。
一九九四年四月 和田純夫

目次

第1章:原子の世界

・個人と集団=原子と物体
・量子力学の誕生と多世界解釈
・原子の構造
・原子核
・原子の「大きさ」とは何だろう?

第2章:量子力学の誕生

・原子はなぜつぶれないのか?
・電磁波の発見
・何かが矛盾している
・もう一つの不思議=量子飛躍
・とびとびのエネルギー
・シュレディンガーによる「形式的な解決」
・電子の波とは何か
・実体のわからない波が二つのミステリーを解決する
・シュレディンガー方程式はいかにみちびかれたか
・「波」が意味するもの
・原子の中の電子の「波」

第3章:確率解釈と波の収縮

・実体のない波の正体は?
・電子波の観測
・強めあいと弱めあい
・電子の波動性と粒子性
・ミクロの現象は確率的に起こる
・マクロの世界とミクロの世界的
・マクロの世界もときに確率に左右される
・「確率解釈」
・実用的な解釈
・「波の収縮」
・コペンハーゲン解釈への疑問

第4章:量子力学の多世界解釈

・多世界解釈
・状態とは何か
・「波」の性質
・状態(世界)の共存的
・電子の波と共存度的
・多世界解釈の基本原理(公理)
・多世界解釈とコペンハーゲン解釈の本質的なちがい
・観測者も共存する各状態(世界)の中にいる
・複数の過去をどう考えるか

第5章:同時進行する複数の世界

・多世界解釈の問題
・電子の状態変化の計算
・ファインマンの理論
・粒子の運動と波の運動
・ホイヘンスの原理
・ホイヘンスの原理と波の歴史
・量子力学における電子の波山
・ファインマンの経路積分
・歴史の干渉

第6章:干渉するミクロの世界・干渉しないマクロの世界

・直進する電子
・直進する電子の量子力学的説明
・2スリットの干渉実険
・一つの電子に二つの過去がある
・人間に複数の過去があるから
・多世界解釈による解答=共存はしているが干渉しない

第7章:シュレディンガーの猫は死んだのか

・修復可能な影、不可能な差
・多世界解釈は「波の収縮」を考えない
・電子の位置の測定器
・観測による歴史の痕跡
・もう一つの問題=歴史の辻褄
・多世界の存在
・修復可能な達と修復不可能な差
・シュレディンガーの猫
・人間の意識も自然現象の一つである

第8章:分離不可能性と不確定性原理

・量子力学の世界的
・アインシュタイン=ボーア論争
・分離不可能性
・さわってもいない波が収縮する
・多世界解釈での解答
・不確定性原理
・止まっている粒子とまっすぐ進んでいる粒子
・位置と速度は同時に確定できない
・不確定性原理による現象
・量子力学の正しさ
・「ベルの不等式」も成り立っていないらしい

第9章:「確率解釈」をみちびく

・確率解釈とは
・確率とは
・確率の計算
・「確率解釈」がみちびかれる
・一般の場合の確率解釈
・量子力学の完全性と人の限界

第10章:光の量子力学

・光と電磁波
・光の粒子
・アインシュタインの光量子説
・場の量子論
・素粒子物理学
・カの起源は粒子の交換である

第11章:宇宙から見た量子力学

・宇宙と多世界解釈
・膨張宇宙
・空間も変化する
・宇宙空間の曲がり
・宇宙のはじまり
・宇宙の変化と量子力学
・干渉が起きる条件
・宇宙の状態変化を計算する
・宇宙の初期条件
・特異点と虚数時間
・多世界の誕生

第12章:多世界解釈の世界像

・量子力学は完全か

しかしアインシュタインが、「量子論が実在についての完全な理論であるとは考えられない」というとき、彼は量子論の計算結果が正しいかどうかを議論しようとしたのではなく、自然を記述する方式としての量子論を問題にしたのである。

自然界が確率に支配されているなどと言う理論を、アインシュタインは承服することができなかった。
「神様はサイコロを振らない」と言う皮肉が、アインシュタインの量子力学に対する気持ちをよく表している。
確率的にのみ予言ができる理論が、「実在に対する完全な理論」であるはずがないと言うのが、彼の信念であった。

・神様はあくまでサイコロをふらない

・量子力学と確率

まず、量子力学と「確率」という概念との関係を考えてみよう。
電子がどの位置に観測されるかわからない、しかし何度も同じ状況で観測を繰り返すと、結果がどのように分布するかはわかる。このことをコペンハーゲン解釈では、「電子の位置は確率的にのみ予言できる」と表現する。
しかしこの表現が、そもそもアインシュタインに量子力学に対して意固地な態度を取らせた誤解の原因だと筆者は思う。

多世界解釈、とくに第9章で説明した考え方にしたがえば、確率という概念と量子力学には、実は何の関係もない
コペンハーゲン解釈的な見方では、容器の左側に電子が見つかる確率が二分の一、容器の右側に電子が見つかる確率が二分の一になるという状況を考えてみよう。この本で使ってきた「共存度」(つまり波の高さのこと)という言葉を使えば、電子が左側にあるという状態の共存度と、右側にあるという状態の共存度が等しいというケースに相当する。

このような状況で、現実に何が予言できるだろうか。このような電子を「一つ」だけ用意してその位置を一回観測したとしよう。もちろんその結果については何も予言できない。金輪際、一回しか観測しないのだから、確率という概念が入りこむ余地はない。何もわからないというのが正解である。

ではどのような状況をつくりだせば、何らかの予言が可能になるだろうか。たとえば同じ状況にある電子を一万個用意して、すべてに対してその位置(左か右か)を観測したとしよう。すると、そのうちの約半数が左に発見されることが予言できるし、実際に実験を行えばそうなる。

しかし、その予言の仕方が、コペンハーゲン解釈と多世界解釈では根本的に異なる。
コペンハーゲン解釈では、電子一つに対する共存度が左右で等しいので、(確率解釈という公理により)観測される確率が等しい。したがって、一万個のうちの約半数が左に観測されるという論理になる。つまり「確率」という概念をもちださなければ、論理が進まない。

一方、多世界解釈では、一万個の電子を観測するのだから、電子が一万個ある状態を考えなければならないと主張する。そして、すべてが左にある状態、100個だけ左にある状態など、さまざまな状態が考えられるが、一万個のうちの約半数が左にあるという状態の共存度が、他の状の共存度と比較して圧的に大きいことがわかる。したがって実際の観測でもこの状態が観測されるというのが、多解界の主張である。

どこにも「確率」という概念は登場しないし、確率解釈と称する公理をもちだす必要もない。電子一つの状態の共存度をもとにして、電子一万個の状態の共存度を計算する、(第9章で説明した)量子力学でよく知られた方法を用いるだけでよい。

・量子力学と実在と意識

量子力学の予言は、確率という概念とは無関係であることを説明したが、これだけではアインシュタインは納得しないだろう。電子一つだけを対象としたとき、それが観測される位置は決まらない。結果は偶然に左右される。では、自然界にどのような現象が出現するのかは、偶然で決まるのだろうか。そうだとしたら、「量子力学は実在についての完全な理論とは思えない」というアインシュタインの主張にも一理あることになる。
しかしこれは人間の意識の問題であるということを、すでに第7章や第9章で示唆した。
量子力学によれば、共存している複数の状態により世界が記述されている。そしてとくに分離不可能性、つまり世の中すべてのものをセットにして状態を考えるという多世界解釈の立場にたてば、人間の意識でさえも共存している各状最それぞれに付随したものと考えなければならない。人間の意識といえども駅福島のきの一形態に過ぎず、他の自然現象と区別する理由などないからである。

・多世界解釈に対する誤解

 


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