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【無能唱元・伝法講義録 002】今、そしてここに生きる

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ゲシュタルト療法という心理学では、人間が基本的な幸福を得るための条件として、「ナウ アンド ヒア」(今そしてここに)に意識を集中することが必要であると説いております。

この、「今ここに生きる」ということは、古来から、禅では強く主張しているところで、ゲシュタルト療法は、この禅からの影響をかなり受けたものといわれております。

考えてみると、私たちが生きている世界というものは、五官的知覚と意識の働きによって構築されているのですが、この六つの器官の働さは、すべて「今」たった今の現在においてのみ、自己の上におよぼされていることが解る筈です。

これをいいかえれば、私たちが、幸福感を味わうのも、不幸感を味わうのも、それは未来においてではなく、過去においてでもなく、実に現在をおいての他はない、ということになります。

ここで、次の引用文を読んでみましょう。

ではいったい彼の成功の鍵は何であったのか?彼の言葉によれば、「一日ごとの区切りをつけて」生きてきたためなのだ。

彼の言葉はどんな意味なのだろうか?

エール大学での講演よりも数カ月前に、Sirウィリアム・オスラーは、豪華客船で大西洋を渡った。船上ではブリッジに立った船長が「急転」と言いながらボタンを押す。

機械のガラガラという音がして、たちまち船は各区画ごとに閉ざされてゆく-水がはいりこめないように区切られてしまう。オスラー博士は、エール大学の学生たちにこう語った。

「諸君たち一人一人は、この豪華客船よりもはるかに素晴らしい有機体であり、ずっと長い航海の途上にいます。私が諸君に考えていただきたいのは、この安全確実なものとするために、「一日ごとの区切りをつけて」生きることによって、有機組織の点検法を身につけることです。

プリッジに立って、少なくとも大きな防水壁が作動している状態を確認していただきたい。ボタンを押しながら、諸君の生活のあらゆる部分で鉄の扉が過去-息絶えた昨日-を閉め出してゆく音を聞いていただきたいのです。

また別のボタンによって、鉄のカーテンを動かし、未来-まだ生まれていない明日-を閉め出してしまいましょう。それでこそ、諸君は安泰です-今日に限っては安泰です……過去と縁を切ることです。息絶えた過去など、死者の手にゆだねましょう……愚か者たちを薄汚れた死へと導いた昨日など閉め出すべきです……昨日の重荷に加えて、明日の重荷まで今日のうちに背負うとしたら、どんな頑健な人でもひるむでしょう。

過去とと同様、未来ともきっぱり縁を切るのです。未来とは今日のことです……明日など存在しないのです……人間救済の日は、今日をおいてありません。

精力減退、心痛、神経衰弱は、未来のことを気づかう人に歩調を合わせながら、ついてまわります……そこで、前と後ろの大防水壁をピタリと閉ざして「一日ごとの区切りをつける」生活を習慣として身につけるような心がまえをすべきでしょう」

オスラー博士が訴えたのは、私たちはことさら明日の準備をする必要はないという意味だろうか?否、決してそうではない。博士はあの講演の中で、明日の準備をする最良の手段は、諸君の全知全能を傾け、あらゆる熱情を注ぎながら、今日の仕事を今日中に仕上げることとであると説いたのだ。
これこそ未来に対して準備万端を整える唯一の方法と言えよう。

[出典:「道は開ける」D・カーネギー著/創元社]

ここで理解するべきは、結局のところ、未来における目標も、現在の生活を充足するための一手段に過ぎないとも考えられるのです。

これはたとえば、日本の弓道では、弓というものは、マトにあてることが第一義ではないといっていることに相通ずるものです。
※参考書籍:弓と禅/オイゲン・ヘリゲル

未来のマトに向って、現在の弓を引きしぼる、とここにこそ張り切った、気力に満ちた充足感があるのではないでしょうか?

この故に、マト、すなわち目的は、現在の幸福感を得るための手段でもある、という考え方が生ずるのです。

[出典:唯心円成会伝法講義]

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