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【無能唱元・伝法講義録 030】存在と実在

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存在と実在

宇宙には私たちに未知のものがまだまだあります。また、異次元のもので、私たちの五感頜域を越えたものは、私たちにとって全く知覚できないものです。

これらの「存在」は、私たちにとっては、「存在しないことと等しい」ものなのです。なぜなら、それは、私たちにとって存在していないからなのです。
これに対して、私たちの既知(きち)なるものは、「私たちにとって存在している」ものです。

この私たちにとって存在しているものを、かりにここで「実在」と名づけます。すると「すべての存在」とは、この実在を含めた存在であり、そこには、私たちにとって存在しない部分もあることが解ります。
さて、更にこの考えを押し進めると、実在とは、私たちによって「意識されるもの」であることが解ります。すなわち、実在イコ—ル意識であり、意識ないところに実在はないのであります。

また更にもう一歩進めて考えるならば、意識とは運動あるいは活動であり、人間の生命意識とは、正に、この意識活動の連続であることが理解されます。すなわち、それは「瞬間の意識の連続」であり、また、ある人は、それを「意識の流れ」という言葉で表現しております。

ここで一つの例をとってみましよう。
中学校の教室で、今、数学の先生が、ピタゴラスの定理について説明しております。そして、その授業中の生徒の中から、三人の生徒の、その瞬間の意識のあり方を抜粋してみることに致しましよう。
A君は真面目で優秀な生徒です。彼は先生の話に正確に聞き入り、彼の頭には、三角形のその図形のビジョンがはっきりと描かれております。
B君は、スポ—ツ好きのタイプで、この授業に退屈しており、野球のこと、つまり自分がピッチャーになって、一球を投じたシーンを思い浮かべています。彼は、放課後のその時間を待ち望んでいるのです。
C君は、昨夜デ—卜した女子学生とのキスシーンを思い出し、うっとりとしております。
この一瞬、ABCの三者の意識に登場している映像は、このように三者三様に異なり、そして、この瞬間、三者にとって「実在」していることは、正に、この映像でしかないのです。

A君の映像は「現在」を素材としており、B君のそれは「未来」を、C君のそれは「過去」を素材としております。しかし、三者とも、それを意識に登場させて、その思考を体験したのであります。
この「意識体験」こそ、私たちにとっての「実在」であり、この体験なきところに、私にとってのあらゆる存在はあり得ないのです。
「その瞬間の意識は、その人にとっての実在である」このことを、みなさんはよく理解して欲しいのです。

現在、目の前にないことでも、B君は未来の野球を、C君は過去のキスシーンを体験しつつあったのです。そして、二人とも、その楽しさ、快感に一瞬酔っていたのでした。
これを別の考え方でいうならば、同一環境の中にあっても、各人にとっての「実在」はそれぞれに異なっているのだ、ということも出来ましょう。

こうして、瞬間の実在は連続して、鎖のようにつながり、それは、その人にとっての「歴史となって行くのです。そして、それは一つの記録となって、その人のアラヤ識に貯えられ、未来の結果のための原因を形成して行きます。

生命体験とは、結局は意識体験でしかないとすれば、意識による実在の原因は、また意識による実在を生み出す母胎にしか過ぎないのかも知れません。
換言すれば、生命運動とは、この意識の流れそのものでしかない、ともいえるのです。
禅話の、百丈の野鴨も、坦山の友人の娘についての固執も、それは、その瞬間における彼らにとっての「実在」だったのです。

ここで、ぜひ注目しなければならないことがあります。
それは、このような「実在」から、しばしば、二つの異なった感情が生ずるという点です。つまり「陽」と「陰」の感情です。

ある実在からは幸福感が生じ、他の実在からは不幸感が生じます。
ラ・ロシュフコーという警句家は「幸福とは、そのもの自身にあるのではなく、そのものの味によって発生するものだ」という意味のことを述べておりますが、けだし至言だと思います。

ある実在が、その人にとって不幸感を発生させるものならば、その人は、その実在をすぐさま、他の実在に取って代えてしまえばよいのです。つまり、意識内の映像を他のものに代えればよいのです。
こうして、すべての人は、不幸に代えて、幸福を選択できます。

宇宙におけるあらゆる存在は、それを意識体験せざる時は、「空性」なるものである。すなわち、それは、私たちにとって実在しないものなのです。
そして、「その実在を、私たちはコントロールできる立場にある」これに気づくことこそ、正に一つの覚醒であり、一つの悟りであるといえるのではないでしょうか?

[出典:唯心円成会伝法講義]

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