脳内で生産される治癒物質
今回は、生物の体内に備わる「自然治癒力」についての考察を再び開始することに致しましよう。
治癒とは、その患部における細胞の陰陽のバランスが、本来、その細胞の特性としてある正しい比率に戻ることであります。
病理は一つであり、その細胞の陰力か陽力が不足した状態によって病患はそこに生じ、そして、そこに不足した陰力あるいは陽力を補充するならば、治癒は行なわれるのです。
ここで説明に用いられているものは「気」という精妙な分野での神秘学的分析論で、すなわち、陰も陽も「気」という目に見えないものの名称です。それは、その目に見えないものという性質上、理解は当然、より抽象的な概念でなされねばならなくなっているものでもあります。
そこで、この気をもう少し拡大し、より物質的(つまり目で見える世界)な意味で、自然治癒における、体の中のある働きを観察してみることに致しましよう。
今日では、殆どの医学関係者によって、よく知られていることですが、同じ程度の傷あるいは病患をもっていても、その痛みには大きな個人差があるのであります。
これは昔は、誤解されておりました。
他人に思いやりがあり、常に寛容である人は、あまり苦痛を訴えず、反面、不平不満を常に他人にぶつける人が患部の痛みに七転八倒しているという野戦病院の実態を見ていたある軍医が、初めに気づいたことなのです。
古くは、このような場合、寛容度のある人はただたんに、痛みをこらえていて、人に訴えないだけだ、というように信じられておりました。そして、その忍耐度と人格の高さに対してのみ賞讃されていたのです。
ところが、近年になって(1970年代)それが、それらの人々は本当に、痛みが軽いのだ、ということが解ってきて、医学にたずさわる者に大きな衝擊を与えました。
ーロにいえば、人格の高い人は、低い人より、病患部の痛みは軽い、といえるのです。
しかし、この場合の「人格の高さ」とは、世の中で一般にいわれるそれとは、やや異なっております。
たとえ、無私無欲の高潔な人物であっても、その人が、すべてに対して厳しく、ある面で冷ややかであるならば、その人格の高さはこの場合に適合しないものです。
ここでいう人格の高さとは、むしろ「霊格の高さ」というべきでしよう。その人の霊、あるいは「真我」といったものの高さであり、人格の高さとは「自我」の高さを示すものです。
この「霊格と人格」あるいは「真我と自我」については、もう少し後でくわしく考察することに致しましよう。
霊格の高さを示す一つの証明は、その人の日常的に発している脳波にアルファー波が圧倒的に多いことです。アルファー波とは、ーロにいえば、ゆるやかな大きな波形の連続です。普通、日常生活では、こまかく小さい波形のベータ波というものによって占められているのですが、霊格の高い人は、普通よりはアルファー波形度が高いのであります。
では、このアルファー波は、どういう心理状態において発生するかというと、それは一口にいえば、「整えられた陽の状態」にある時、発生するものです。これらの人々には、「焦り」「恨み」「怒り」「不安」「苦悩」などの暗い要素がありません、そして、その暖かい心は、他人への思いやりに向けられます。そして、自らの安心を得ているのです。
脳波がアルファー波を発生している時、大脳からは、痛みを消し、そこを治癒させる「エンドルフィン」という有益物質が生産されていることが、近年になって発見されました。これは、生体の自然治癒現象のメカニックを、非常に明確に説明し得るものであり、古く「体の中に医師がいる」
といわれた意昧もよく解るのであります。
このように、脳機能の働きの一つとして、ある物質を体内に生産することが最近の人体生理学で発見されまして、このような物質は「神経伝達物質」と呼ばれています。
人間は、五感による知覚反応から、喜怒哀楽の起伏状態のあり方に応じて、この神経伝達物質が体内に増えたり、不足したりします。
例えば、びっくりしたりすると「アドレナリン」という物質が増え、怒りが強く続くと「ノルアドレナリン」が増えます。
「ドーパミン」は心が平穏な時、生産されており、眠くなるというのは「セロトニン」が増加しているのです。
エンドルフィンも、これらの神経伝達物質の仲間なのですが、この物質が特に近来注目をあびたのは、その強力な「鎮痛」と「鎮静」の作用であり、これは麻薬と同様な作用であるところから「脳内麻薬物質」とも呼ばれております。
針麻酔や電気麻酔などにかかっている時は、必ずこの脳内麻薬物質が多量に分泌されているといわれております。
また、催眠術などで、腕などに針を刺しても痛くないなども、同様に、このエンドルフィンの力が働いているのです。
また、身体の筋肉などを使い過ぎて、その苦しさが頂点に達すると、このエンドルフィンの多量分泌で、急に楽に(それは快感ともいえる状態で)なることがあります。
傷を負ったり、ケガをしても、精神が興奮状態にある時、このエンドルフィンが分泌されているため、殆ど痛みを感じない時があります。
深い瞑想状態とは、一種の無意識的状態なのですが、この状態が起きるというのは、生理学的に見るならば、エンドルフィンおよびそれと同質の体内物質(例えば、エンケファリンなど)が体内に多量に分泌されている状態です。
瞑想が肉体を健康にするその謎はこの辺にあるようです。つまり、この良い意味での麻薬作用は 一□にいえば「痛みを止めて、良い気分にする」ことですから、この気分の中にある時、体の全細胞はそれ自身が本来有する自然良能力を発揮し始めるからです。
それは、他の有益な神経伝達物質を誘発し、それらの物質が、病んでいる細胞に働きかけて、それを治癒し、癒すのです。このようにエンドルフィンは、体内の他の自然治癒的物質と協力して働くのであります。
[出典:唯心円成会伝法講義]