無能唱元

【無能唱元・伝法講義録 080】五蘊

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五蘊(薀とも書く)

般若心経に「五蘊皆空」として出てくるこの五蘊は、また「ゴオン」とも発音され、一般には読経の際、そう読まれるようです。これはまた「五陰」とも書かれますが、この字から考えても、「色身」のあることは「陰」の発露であり、それのなくなった「霊的存在」の方を陽と見ているのであろうことが察しられるのです。五蘊とは、物質と精神を一如なるものとして見て、それを五つの種類に分類した仏教独特の考え方です。

①色蘊
五根(見る側の五官)と五境(見られる側の客体)が普通世間でいわれる物質的なことであるが、これらを総称して「色運」という。
②受蘊
外界の何かを見て(あるいは聞いて)、その存在に気づく、つまり、存在を受け入れる機能(積集体)
③想蘊
受けとったその存在を像として感ずる機能。
④行蘊
その像を、きれい汚い、また善い悪いなどの好悪の感情的判断をする機能。
⑤識蘊
受、想行の働きを統括する心の本体で、この機能が、外界にそのものが「在る」と感じさせる。

以上が五蘊(五陰)の意味です。
この内、第一の「色蘊」が「身」を表し、他の四つの蘊が「心」を表し、この「身心」の合体が、「有情」すなわち、感情あるものの意で、生物であることを表現しているのであります。

五蘊仮和合(ごうんけわごう)

「色受想行識」この五つの蘊が集合して、私たちに、「物質的存在感」を与得ているのだ、と唯識学は述べています。これを「五蘊仮和合」といい、私たちが実在していると思っているのは、五蘊の働きによる「仮りの姿」にしか過ぎない、というのであります。
そして、これを「仮観(けがん)」と呼び、世間一般の無明なる人々は、この仮観を実在と信じているのですが、これを「五蘊皆空」、として悟った人は「空観(くうがん)」を得て、自由自在に生きられるようになったと評するのです。

三界流転(さんがいるてん)

「有情」(生物)は三つの世界を流れ転化して行くのだ、と仏教教学は説きます。
それは「欲界」「色界」「無色界」の三界です。これは簡単にいえば、過去、現在、未来といってもよいのですが、無色界の未来とは、「色身」を失ったという意味から、死後ということになります。

欲界の欲とは、必ずしも悪い意味の欲ではありません。これは「衝動」の意味でここでは「因」の縁が生起したことを指します。そして「色界」とは、その因が結実したことで、すなわち「果」の世界です。私たちが人間という結果にあるのは、過去世においてそうあるべき原因を集積したからだというのであります。

以上のことからいって、欲界、色界にあっては、五蘊仮和合の状態が無色界に入ると「色蘊」は無くなって、あとの四蘊になるのだといいます。
色蘊というものは、五感の知覚集積とその統合意識の六識によって実在感が生ずるのです。
死という転化によって、五官的知覚は止み(表層意識の領域において)、意識は、深層意識のマナ識やアラヤ識に統合されて、あらたなる旅立ちにでます。すなわち、この「意識、マナ識・アラヤ識」が、四蘊をもって構成される有情体なのです。そして、時がたつと共に、意識も基本体であるアラヤ識に編入されて行きます。こうして、次なる世界、つまり「色界」への種子をあたため、熟成する「欲界」が始まるのです。

このようにして、私たち有情は、三界を流転するのですが、このような現象は、もっと小型の輪廻として、この世の人生の中にも無数に登場しているのです。
たとえば、病気に悩む人が、その病気の悩みを因として、自分のアラヤ識に入れれば、それは新しく、病気を継続するか、その病気をもっと増大させる果となって現れます。

反対に、お金が欲しいと思い、明るい期待の内に、そのお金がはいってくることを思い描いておれば、それも因となってアラヤ識に入り、将来においてそのお金を得るという果になって、それを体験します。

このように「因果律」というものは、その人の生きている間にも、その時間の長短において無数に生じ起きているのです。こう考えると、「お金が欲しい」と考えた「欲界」は、自分の人生の途上にもあり、そして、そのお金を得たという「色界」も同時に人生の途上にあることになります。しかし、無色界とは、色蘊がない、四蘊の状態ですから、これは死後の世界ということになり、この意味では、現世は、
「因」→「果」(この内から因が発生し)「因」→「果」「因」→「果」という繰り返しによって、現象というものが生じつづけているのだ、とも考えられましょう。因果のえがき出す輪廻の模様は、人間の在世中も、それ以前も、それ以後も、大小の無数の輪を記して行きます。そして、それはアラヤ識の基体となるものであります。

[出典:唯心円成会伝法講義]

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