統一教会

統一教会:霊感商法の手口暴露!印鑑トーク・壺トーク・偽霊能者トーク【転載自由】

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霊感商法に魅入られた男:元統一教会信者の手記(ハンドルネーム:おやぢ)

この小説風の体験談は、お人好しの土木青年のぼく(たつせいぞう)が、統一教会でケツの毛まで抜かれ、やっと目がさめたときには莫大な借金を背負っていたという、なんとも情けない超典型的騙されパターンから始まります。
しかし、これではいけない!と一念発起して起業家を夢見ながらさまざまなサイドビジネスを手がけたのはよかったものの、気がついたらますます貧乏になっていた……という可笑しくも悲しく生々しい実態が浮き彫りにされています。

ぼくの場合、おとなしく土方をやっていれば、今ごろ土建屋のおやじくらいにはなっていただろうが、どこかで歯車が狂ったらしい。サイドビジネスに手を染めたばかりに儲かるどころか、銭を失い貴重な時間と青春を失ったジャンキーな男。日本中探してもこんなアホな男はどこにもいないだろう。

キャッチ商法、霊感商法にはじまり、次々商法、ねずみ講、マルチ商法、ネットビジネス、ありとあらゆる怪しいビジネスを体験した「バカお人好し」が過去を回想しながら告白する、驚愕の実態の数々。

[まえがきより]

ここで公開する内容は、一和高麗人参濃縮液(一和高麗人参茶・朝鮮人参)を買ったことがきっかけで、霊感商法の毒牙にかかり壺や印鑑を買わされ、挙げ句マインドコントロールにより統一教会信者に仕立て上げられた純朴な青年が過去の反省と総括のために綴った手記です。

おやぢさんは自虐的でコミカルな表現で描いていますが、統一教会の実態は、ケツの毛までむしり取られるとはよく言ったもので、統一教会の魔の手にかかったらアリジゴクの巣にハマった蟻が体液を吸いつくされ干からびた状態で巣穴からポイッと放り出されるように、『子供を売ってでも、借金しでも献金せよ!』とノルマを達成するまで圧力をかけられ貯蓄・財産を搾り取れるだけ搾り取り、お金がなくなれば味の無くなったガムのように用済みポイ捨て!破産しようが家庭崩壊しようがしったこっちゃないとばかり信者を見殺しにするのです。

そんなエグい内容にもかかわらず、統一教会や霊感商法にひっかかった馬鹿な男をどうぞお笑いくださいとあえて恨み節的な内容にしなかったのは、おやぢさんよりもっと非道い仕打ちを受けた信者さんがたくさんいることを知っていたからでしょう。

おやぢさんが、統一教会の極道非道な実態を曝け出したメルマガを配信開始したのは、ぼちぼちインターネットが普及しはじめた頃、1999年09月15日からです。その膨大なメルマガの中から霊感商法に関連する部分を抜き出して編集してみました。

今もなお水面下で暗躍し続ける霊感商法……
その手口の一部始終を克明に記録したおやぢさんの手記は、刮目に値する一級資料です。

各メルマガの奥付にはこう記載されています。
==========================
不良食口おやぢの独白は転載・複写・自由です
==========================
これ以上被害者を出さないためにも、どうぞ多くの方に教えてあげてください。

 

プロローグ

十七の春だった。雪まだ残る山形から、東京に出てきたのは……

しぇんしぇ(先生)が言ってた。
「東京てば、オッカネェどごなんだぞい。とぐに、ワリイ女さ気ぃつけろよ」
ぼくは、足立区の土建屋で一所懸命働いていた。

そこは、盆、暮れ、正月くらいしか休みのない忙しい(労基法なぞ関係ない)とこだった。背広を作ったものの、なかなか着る機会もない。憧れの東京を満喫することもできなかった。

「たつっ!チンタラしてんぢゃねぇ!気合入れて穴掘れ!コノヤロ」

「オラオラ、腰入れて!こうだ。ちゃんとやれ、このバカ」

「おうおうっ!型枠パンクしたぞー。たつ!バケツでコンクリ、カッパげい!」

親方の罵声が容赦なく飛ぶ。

仕事が終われば毎日酒盛りだ。そう、あの山谷ブルース(ふ、古い)♪今日の仕事はつらかったぁー……あとはー焼酎をあおるだぁけぇー♪の世界である。

雨がふれば、朝から酒かっくらって、花札マージャンチンチロリン。土日はもちろんおンマちゃん、片手にツルハシ、耳はラヂオに釘付けさ!てなものだ。ぼくは土とコンクリにまみれながら、酒と博打に明け暮れていた。青春だった。

ある時、珍しく休みがとれたので、ショウノウ臭い一張羅の背広を着て、花の銀座に出かけることにした。たっちゃん上京して3年目、はたちの春である。

もの珍しそうにキョロキョロしながら銀ブラをきめていると、一人のオニイチャンが目の前にあらわれた。

「映画に関するアンケートをお願いします」と頼まれたので、小学六年生から献血をしてるぼくとしては、お安い御用と快く受けることにした。

一通りアンケートに答えると今度は映画を無料で見れたり、いろんなサービスがついているとかいうチケット綴りをを薦められた。なんでも一冊3000円らしい。へぇーそりゃお得だな、そいじゃ友達の分もと3冊買った。

今でこそ、そりゃインチキだ!とすぐわかってしまうこのぼくだが、当時は純粋無垢な好青年ゆえ、人を疑うことなど全く知らない。そういえば、じいちゃんは連帯保証人になって借金をそっくり被ってしまった経歴の持ち主だったそうだ。そのせいだろう、自慢じゃないが、ぼくはよく「人が好いねぇ」と誉められたものだ(苦笑)

「たつ、おめぇって人がいいんだなぁ」

「金もたくさん持ってるし。ねっ、たつセンセ」

親方と先輩が羨望のまなざしで言う。

「いやー、そ、そうでもないっすよ」

フッ、よせよおい、そんな……ぼくの寛容な人格にあらためて感動されちゃっちゃあ、照れるじゃないか。

英会話のセットを買った。恋人紹介センターの会員にもなった。競馬丸秘必勝法も買った。
しあわせの壷は買ったし、開運の印鑑も買った。あれも買った、これも買った……

「ぼく、いいもの買ったんすよ」

仕事を終え、飯場で一杯やりながら、ぼくは得意になってその商品の説明をしていた。
いまだから告白しよう。実はつい最近まで『人が好い』を誉め言葉と思っていたオメデタイ人だったのだ。
ぼくって、セールスマンやマルチ商人、はたまた新興宗教の勧誘をするには格好のカモだったのだろうな、きっと。とほほ……

「東京てば、オッカネェとこなんだぞい」

気がつくと、しぇんしぇの言葉は遠い過去のものとなっていた。
そもそも、なぜぼくがサイビジャンキーになったのかといえば、土方以外に副収入が必要となったからである。

まじめに土方をしていれば食うには困らなかったにもかかわらず、副収入が必要になってきたのは、他でもない、借金地獄に落ちたからである。

自分で作った借金ならあきらめもつくが、お人好しの上にバカがつく『バカお好し』なものだからサラ金の名義貸しをしてしまったのだ。これが引き金となって地獄に転がり込んでいくことになるのであった。

借金地獄に落ちた決定的な原因はサラ金に手を出してからだが、下地となったのは実は、カルト的宗教団体との関わりなのである。

お布施という名目で金は吸い上げられるわ、布教という美名のもとに人狩りを暗に強制させられるわで、これに関わったらケツの毛まで抜かれるとは良く言ったものだと思う。

『○ムウ○イ教』などと揶揄されるように、基本的にぼくは、ネットビジネスもあやしい新興宗教も、同じカルトだと思っている。信者もディストリビュータも
『教えられたことを素直に信じている』こと
『絶対視している』こと
『自分達の世界以外を蔑んでいる』こと
『きれいごとをいう』こと
『自分の価値観を押し付ける』こと
『熱狂的であること』こと
『平気でうそをつく』こと
『人の意見進言に耳を貸さない』こと
『まともな話し合いができない、議論にならない』こと
等などがその理由である。(もっとあるがキリがない)

豊田商事事件がおきたのは昭和六十年(1985年)だったが、それと同じ頃霊感商法というのが流行っていた。

ぼくは年寄りではなかったので、豊田のセールスマンから勧誘を受けたことはない。そのかわり、ずーっと以前から朝鮮人参エキスからはじまって、幸福の壷開運の印鑑、などを次々と買っていたおとくいさんであったのだ。もうこの時点で『霊感商法』と『次々商法』に引っかかってしまっていたってわけである。

サイビジャンキーへの道はここからはじまった。

霊感次々商法で金を取られて貯金もなくなったころ、カルト教団でボランティアのような真似事をしているうちに、世のため人のために生きる!為に生きる!なとど分不相応なことをやり出し、ますます貧乏になっていった。

そうしているうちに今度は、知人からサラ金の名義貸しを頼まれた。親から借りた金を又貸ししたこともある。『バカお人好し』は借用書など書かないから、結末はもうお分かりだろう。

時は流れ……

自分の足元も固まっていない奴が世のため人のためなど出来るわけがない!
『バカお人好し』は少し目が覚めた。

バカがとれて『天然お人好し』になった。ボランティアなどやってる場合じゃない。家族のために頑張らねば!そう思った。

だが、気づくのが遅かった。その頃は、もう親方、呆れてモノが言えない状態。仕事にならない奴をおいておく訳にはいかない。自然と『脱ドカタ』になった、てなわけである。さあ、いよいよ起業家の道を歩む時がきたのだ。

その時、負債総額1,200万円。四人家族を養うには少々荷の重い、決してメデタクナイ船出ではあった。

訪問販売:一和高麗人参茶

「とぐに、ワリイ女さ気ぃつけろよ」

しぇんしぇが言ったことはホントだった……
昭和54年(1979年)秋、ぼくは足立区の江北橋近くで突貫工事をやっていた。3時の休憩にハコバン(プレハブの仮設小屋)で、エバラギから来ている人夫のおばちゃんたちと、スルメや漬物なぞを食べていた時の事であった。

「こんにちわー、健康管理センターから来ました田中でーす」

黒い大きなバッグを肩に掛けた女の子がいきなり入ってきた。年の頃22-3歳、目のクリックリッとした清楚で可愛らしい感じの女の子だった。だいたいこんなところに尋ねてくる奴は、おふだを押し売りする『やくざモン』くらいのものだから、彼女の訪問はとても新鮮に感じたのを覚えている。

初め、鈴木先輩のそばに行っていろいろ話しかけていたが、ハナから無視していたので、こんどは矛先がこっちに向いてきた。目が合うとスーっとこっちに寄ってきて、

「あのーぉ、健康に関心はありますか?」

「は、はい。関心あり、あ、ありますけど……」

「今日は健康についていろいろお話をさせてもらっているのですが、今どこか体の具合悪いところ、ありますか?」

「いや、特に、ないっす……」

「でも少し顔色悪いようですね、肝臓なんかが弱っているのではないですか?」

などとやさしく声を掛けてきた。

その日は少々風邪気味だったので顔色が悪かったのはたしかだ。そりゃあ、毎日コップ酒だもの、肝臓も悪くなってるだろーよ。そういえば、最近少し手が震える。

とにかく、彼女の一言がきっかけになって、あらためて自分の健康について考えてみようと思ったのは確かだ。

曰く、濁ってドロドロヘドロ状態の血液が病気の原因である。そうなった場合は体質改善をしなければならない。具体的には酸性体質をアルカリ性体質に改善する。その為には食事療法が一番いい。だが、なかなか面倒だ。だから、朝鮮人参がいい……みたいな話を延々と聞かされた。要は朝鮮人参は体にいいよっ、てことだろう。わかったようなわからないような。でも、まいっか、って感じ。

一通り健康に関する話を聞かされたあと、彼女はおもむろに黒いビンを取り出して言うのだった。

「これは一和の高麗人参濃縮エキスです。毎日お湯に溶かしてお茶代わりに飲めば万病を予防できます。そして、とっても健康になるんですよ」

しらんぷりして、しっかり聞いていたエバラギのおばちゃんがツッコミを入れた。

「あっちもビンビンになんだんべよー、あっはっはははー」

はじめは、自分の健康のためだけに買おうと思っていたのだが、ふと田舎のばあちゃんにでも買ってあげようかなぁ(今考えても不思議なのだが)という思いがわいてきた。これはいわゆるひとつの『ばあちゃん孝行』とでもいうのだろうか。で、6万円の大枚をはたいて、ばあちゃんのために一個買うことにした。これで一ヵ月の労賃の半分が消えた。

___でも普通、親孝行しようと思うよなぁ。結局、面倒くさくなってばあちゃんには贈らずじまい。ナイトキャップがわりにウイスキーに溶かしてガバガバ飲んだりしたものだ。

そうこうしているうちに、突然ばあちゃんが亡くなったとの訃報が入った。はじめて人の死に直面したぼくは、あらゆる意味で複雑な心境になって落ち込んでしまった。

おととしの盆休み、村で成人式をするというので久しぶりに帰郷したおり、ばあちゃんに一万円の小遣いをあげたことがある。

ばあちゃんがいつも寝ているふとんの下から、和紙に包まれた一万円札が出てきたそうだ。その紙には「せいぞう、ありがとう」と書いてあったと聞いて、思わず涙が出てしまった。

人間の命ってはかないな。何のために生まれてきたのかな。人生の目的ってなんだろう。死んだらどうなるのかな。あの世ってあるのかなあ……

それ以来ぼくは、人生というものを深く考えるようになり、がらにもなく哲学するドカタになってしまったのである。

今日も、西川口(フーゾク)に行く先輩を横目で見ては「世界は一家、人類は皆兄弟姉妹。先輩とぼくは○×兄弟」と、悟ったとか思えば毎日毎日おなじことの繰り返しに「ぼくは食うために生きてるのか、生きるために食ってるのか」などと悩んでみたりしたものだ。

霊感商法の霊感トーク:大塚の霊場にて

しばらく経ったある日の事

例の朝鮮人参売りの彼女から電話があった。なんでもお客様にアンケートをとっているのだという。その後の体調はどうだとかこうだとか、ひとしきり商品と健康に関する質問を終えたあと、突然、異質な質問をしてきた。

「運勢や占いに興味ありますか?」

「はあ、よく雑誌の占い欄をみてますけど……」

「そうですかぁー」

「人生の目的や死後の世界について、関心はありますか?」

「うん、すごく関心あるっすよぉ」

「へぇーそうなんですかぁー」

こころなしか彼女の声が明るくなったように思えた。

「霊界ってあると思いますか?」

「んー、あるんじゃないすかねぇ」

会社の関連で、韓国から有名な霊能者の先生が来ているので、顧客サービスの一環として特別に占ってくれるらしい。ただで占ってくれるなら、と軽い感じで申込んでみた。

次の日、早速、彼女から電話が入った。

「たつさん。先生に顧客カードをお見せしたら、しばらく黙って、じーっと見ているんですよね。どうかしたのかな、と思っていると『この人は今、転換期ですね』とおっしゃるんですよ……なんだか、すごい転換期みたいですよぉ」

「ほお、人生の節目ってことなんすかねぇ。実は、ぼくもそう思っていたんすよ。いったいどんな転換期なんすかねえ」

「それは、プライベートなことなんで、直接本人にしかお話できないそうです」

「あ、そうすか、じゃ是非お話聞かせてくださいと先生に伝えてください」

「わかりました。先生は今、高麗大理石壷の展示即売会の会場におられますので、私が案内します。それじゃあ、今度の木曜日夕方7時はどうですか?」

「あ、いいっすよ。お願いします」

「そのお壷さまは『幸福の壷』と呼ばれていて、授かった人がとても幸せになる壷なんですよ。たつさんも是非見てくださいね」

「あ、それから先生が印鑑の相も見てくださるそうですから、今使っている印鑑も持ってきてくださいね」

子宝じゃあるまいし、授かるとはなんとも不思議な表現だが、その時はそれだけアリガタイお壷さまなのだろう。と、単純に思っていた。

当日、山の手線大塚駅で待ち合わせをしてタクシーに乗り、会場までお導きをうけた。

「たつさん。働いて何年になるんですかぁ」

「休みもとれないんじゃ、疲れがたまりますよね」

「でも、お金は貯まりますよねぇ(笑)」

「ホントお仕事大変なんですね」

車中であれこれ世間話などを交わしているうちに会場に近づいてきた。

「今、貯金はおいくらくらいあるんですかぁ」

「親方んとこに通帳預けてあるんで、はっきりわかんないんすけど、100万くらいかなぁ」(この時、しっかり財産の把握をされていたことも知らないで……)

会場について来場者名簿に記帳したあと、ビデオのある部屋に通された。巫女さんのような格好をした人がお壷さまの説明をしてくれた。

このお壷さまは韓国にある霊山の大理石で出来ていて、大変霊験あらたかなものであるらしい。有名人もこのお壷さまを授かっているらしく、大山倍達総帥古賀政男先生がお壷さまと写っているパンフレットも見せられた。

次に「しあわせのお壷さま」とかいうビデオを見せられた。

壷にイエスキリストが現われただの、病気が治っただの、急に金回りがよくなっただの、独身の息子に嫁が来ただの、お壷さまのおかげで、こーんなにいいことがありましたという奇跡の体験談が次から次へと語られる。

いいことづくめで、このお壷さまさえ手に入れれば世の中恐いものは何にもないんですぞ、とでもいいたげな内容だった。出された寿司をほお張りながら、2-3万円もするのかなあ、などとお壷さまの値段にあれこれ思いを巡らしていた。

さて、霊場といわれる部屋に通され先生を待つことになった。

現れたのは40代とおぼしき女の先生、おだやかな口調で話をはじめた。
親や兄弟、おじ、おば、祖父母の事をあれこれ聞かれ、知っている範囲で答えていきながら簡単な家系図を書いた。さあ、これを元にいよいよ『霊感トーク』が始まるのである。

トークの内容は実にシンプルなもので、要約すると次のようになる。
あなたの家系には殺生因縁、色情因縁、財の因縁がある。武家の血を引いているので特にひどい。その因縁ゆえに先祖は地獄にいる。地獄で苦しんでいる先祖があなたに救いを求めている。因縁から解放するためには出家をしなければならない。というものであった。

「たつさん。出家はできますか?」と尋ねるので

「はい、先祖が救われるなら、出家でも家出でもします」
と答えたら、驚いたような顔をして、ぼくを見つめた。ぼくは、先祖が救われるなら家を出る!といってるちうに、

「でも、罪(ざい)は財(ざい)で清めることができるんですよ。神社の賽銭箱に浄財と書いてありますよね。あれは、ざいはざいで清めるという意味なんですよ」
などと少々ピントのズレた話になってきた。

「じゃあ、お金を出せば解決するんすか?」

「いえ、お金で罪を消すというのではありません。出家のような覚悟で財を天に捧げるということが大切なのです」

「はあ……」

「たつさん。あなたは身を切るような思いで天に財を捧げることはできますか」

「はあ…出家よりは楽っすから」

「その決意を天が認められたら、天は霊石を授けてくださるでしょう。でも、なかには授けられない人もいるんです」

いつのまにか横に座っていた朝鮮人参売りの彼女が言った。

「授かるといいですね!私も先生から授けていただいたんですよ!」

「はあ……」

「先生!是非たつさんに霊石を授けてくださいっ!わたし、断食でも水垢離(みずごり)でもなんでもしますから、どうか授けてください!!先生!お救いください!先生、どうか御願いしますぅー!うう……」

絶叫状態に、たっちゃん、しばし唖然。

なんと大袈裟な、涙まで流して先生に御願いしてくれるとは……
もしかしたら、先生。出家の代わりに幸せのお壷さま、霊石をはじめから勧めるつもりだったのでは?先生ってばホントにもう、みずくさいんだからぁ。回りくどく言わないで、最初から言ってよ、って感じ。

「では、祈ってきますので、黙とうして待っててください」

先生退場。ぼくは片目をあけて、彼女の方に目をやる。何やらぶつぶつ祈っている。

……先生再入場。先生がお座布団にお座りになられるまで、彼女は大名行列の時の百姓のようにへへぇー状態。ぼくもつられて、へへぇー。

「たつさん。よかったですね。授かることができましたよ。天は120と210の数字を示してくださいました」

「へ?」

「たつさん!ホントによかったですねぇ。先生ありがとうございます!!」

ぼくは特別嬉しくもなんともないが、彼女はホントに喜んでいる、ように見えた。

「たつさん。120数(すう)と210数(すう)、どちらを選びますか?」

「????」

「120万円の浄財と210万円の浄財、どちらを選びますか?」

どうやら、120万のお壷さまと210万のお壷さまとどちらを買いますか?ということらしい。

「……じゃ、120とゆーことでお願いします」

しばらくすると、先生のお付きの人がお盆になにやら載せてすーっと入ってきた。襖の陰に待機してたような絶妙のタイミングだ。

「たつさん、それではここにあなたの住所と名前を書いてください、印鑑はここに押してください」

よく見るとそれは、契約書だった。それには
販売店:株式会社 世界のしあわせ
代理店:日本パナックス
などと名前が書いてあった。いまにして思えば、『世界しあわせ』とは霊感商法の先祖みたいな会社である。して、日本パナックスとは、他でもない朝鮮人参売りの彼女の会社なのであった。

しあわせの壺

気がつくと日付が変わっていた。

ぼくは、桐の箱に入れたお壷さまを抱えながら、車で寮まで送ってもらうことにした。
寮に着いてさっそく折りたたみテーブルの上に台座を敷き、その上にお壷さまを置いてみた。一緒についてきた彼女が言う

「たつさん、よかったですね。ご先祖さまも喜ばれていますよ」

「この布で、このように円を描くように、毎日40回づつ思いを込めて磨かれるといいんですよ」

「へぇそうなんすか、なんかいいことあるんすかねぇ」

「ええ、ご先祖さまが守ってくださるので、運がどんどんよくなってくるんですよ」

彼女の話が続くなか、ぼくはある一つのことに思いをはせていた。彼女が言ってることなんか、もう聞いちゃいない。思いをどんどん膨らませていくうちに自然と顔がほころんでくるのが自分でもわかる。んふふふふ……

「……たつさん、たつさーん」

「は?」

「ご浄財のことなんですが、いつ奉納されますか」

「あ、そ、そうっすね。じゃとりあえず、明日用意しますんで取りに来てください」

ぼくは、それどころではなかった。今度の日曜日が楽しみで楽しみで、それどころではなかったのだ。さあ、どう料理してくれよう。一点買いにしようか、流しにしようか、んー迷うなぁ……でへへへ。

彼女が帰ったあと、お壷さまを40回、いや300回以上は撫で回しただろうか。ぼくは、満ち足りた気分で深い眠りについた。朝鮮人参エキスの焼酎割りが、ことさらうまく感じたことはいうまでもない。

翌日の昼休み

預けておいた通帳をとりにスーパーカブでひとっ走り、親方の自宅へ向かった。
奥さんが、なんでおろしちゃうの?と聞くので、とっさに

「ばあちゃんの仏壇買うんすよ」
と、うまい方便が出てきた。壺買うと言わなかったところがまた大人だな、などとと自己満足にひたっていた。(あとで自分からバラシてしまったが)

通帳を見てみると、なんと!ぴったり120万円+利息が入っていた。やはりこの日の為に用意されていたんだ、と思うと感動と驚きで鳥肌が立った。こういうのを『導かれた』というのだろうと思った。

○×信用金庫の窓口で
「全部おろしたいんすけど」
と申し出ると、通帳を見ながらおろす理由をあれやこれや聞かれた。自分のカネなのにいちいち理由をいわなければならないのには少々むっとしたが、これも決まりなんだろうと思って素直にこたえることにした。

「高級美術品を買うんすよ」

「絵画かなにかですか?」

「いや、大理石の壺っす」

「つ、ぼ、ですか」

「はい」

窓口の人はけげんそうな顔をしながらも、少々お待ちくださいといって手続きをしてくれた。

冷静になって考えてみると有名な画家の絵ならともかく、美術工芸品の大理石壺で100万円以上もするものはそうざらにあるものではない。

一般的な常識では骨董品か人間国宝が作ったものだろう。ましてや土とコンクリでうす汚れた作業着を着て、くるくるパーマで不精ひげの20代のあんちゃんの趣味としては少々不似合いである。

まあ、そんなことはどうでもいい。めでたく預金を全額おろすことができたのだ。これで浄財ができる、罪(ざい)を財(ざい)で浄(きよ)めてもらえる。

いろんな奇跡がおこる、幸せになれる、浄財したお金もすぐに何かのカタチで戻ってくるそうだし、願いもかなえられるし。そう思うとうれしさがこみ上げてきた。

夜、朝鮮人参エキスの焼酎割をチビチビやっていると、彼女が浄財を預かりに来た。

しゅっしゅしゅぱしゅぱしゅぱっ、ぱちん!まるで銀行員のような手さばきでお札を数えている。ぼくにはそういう芸当はまったくできないからおもわずみとれてしまった。

ばあちゃんの葬式で、香典を数えるとき初めて左の小指と薬指と中指でお札をはさんで数えるやりかたを試してみた。が、もたついてうまくいかなかった。それ以来、ぼくのお札の数え方は『トランプを配る方式』に決定したのだった。

「……ひゃくじゅうはち、ひゃくじゅうく、ひゃくにじゅう」

待ちに待った日曜日がやってきた。

サンデーハズカムである。うきうきした気分で、竹ノ塚から東武線で浅草駅へ向かった。
目指すは、そう、浅草場外馬券場である。さあ、どこからでもかかってきなさい!って感じ。

昨日の夜は、お壷さまにばっちし祈ったし、400回も磨いたからなー、もう恐いものなしなのだ。

で、全レースにトータル10万を突っ込んでみた。今までは、多くて1万円くらいだったのに、今日は10倍の投資だ。迷いもなく10万円分の馬券を買い込んだあと、ぼくは意気揚々と鼻歌なぞを歌いながら寮に帰ってきたのだった。
______Wish on a TUBO!

ぼくは、もういとおしいお壷さまの口に馬券を突っ込んで一心不乱に拝んだ。
あとはテレホンサービスでレース結果を確認するだけである。

ところが、ところがである!ものの見事にハズレていたのである。拝みかたが悪かったわけでもあるまいし、磨き方が足りなかったわけでもあるまい。なんでそうなるの?んー、なぜじゃなぜじゃー!?んーわからんわからん。

悩みながら、ふとお壷さまの方へ目をやると"製造番号00385"とか書いてあるシールが目に止まった。

「ふーん、ぼくって全国で385番目の果報者なんだぁ」

「フフッ、このシールがお壷さまのパワーに封印をしてるんだな!」

などと、意味不明なことを口走りながら、そのシールをベリベリっと剥した。

壺さまの封印を解いたぼくは、気分爽快。次の日曜日が待ち遠しい。

***

お待ちかね、やってきました日曜日。

今日も先週と同じく10万円投資してみたのだが、結果は大ハズレ!かすりもしなかった。
これにはさすがのたっちゃんも青くなった。

「封印を解いたのに、なぜ効果がないんだ!?」

「このシールは封印のはずだが」

「そうに違いない。きっとそうだよな」

「そうなんじゃないかな」

「そうあってほしいなぁ……」

……そう思い込まずにはいられなかった。

「こりゃ、騙されたかなぁ」(気づくのが遅いちうの!)

「んー、くやしいな、返そうかなぁ」

「ん?まてよ。そうだ、佐藤大工に売っちゃうべぇ」

早速次の日現場で、草加から来ていた型枠大工の親方に話を持ちかけることにしたのだった。自分でも機転が利くなあ、グッドアイディアだなぁ、と思った。

「佐藤さん。美術品に興味ないっすか?」

「なんだよ、おめえ、なに売りつけるつもりだ?」

「大理石の壷なんすけど、古賀政男も持ってるらしい、いい壷なんすよ」

「ふーん、いくらすんの?」

「200万」

「なにぃ、にぃひゃくまあーん?ばかやろ、んなもん買うか!」

目がマジで怒っていた。やっぱりだめか。トホホ……

それで、とうとう朝鮮人参売りの彼女に電話でクレームをつけることにした。

現場では、このやろう、てめぇ、ばか、こんちきしょう、すっとこどっこい、というような罵声が飛び交っていて、聞いたり言われたりするのには慣れているのだが、人を脅かしたことなどないぼくは、精一杯ふてくされた物腰でクレームをつけてみた。

「ぜんぜん、いいことないんすけど、どうしたんすかねぇ」

「ぼくの部屋、どろぼうから入られるし、車、運転してたら追突されたりとか、お金だって出ていくだけっすよ。なんにもいいことないじゃないっすか」

どろぼうも追突も、方便で言ってるのではない。実際あったことだ。(しかし、どろぼうも目もくれないという、高級美術工芸品って一体、何?)

その事件がますますお壷さまに不信感を募らせる要因となった。ぼくとしては、彼女に精一杯のクレームをつけたつもりだった。

が、彼女の口からは予想もしないこたえが返ってきた。

やけに明るい声で
「そうですかぁ。でも追突だけでよかったですね。命が無事だったのはお壷さまのお陰ですよ」

「へ?」

「もし授かっていなかったら、命を落としていたかもしれませんよ」

「どろぼうに入られたのも、なにかの警告ですよね」

「たとえば、大難の前の小難のような……」

「もしかしたら、工事現場でクレーンが倒れてきて、下敷きになってしまうかもしれませんよね。足場から落ちてしまうかもしれませんよね」

たしかに。現場は常に危険があぶない。

「ですから、どろぼうに入られたことで、大難を防ぐことが出来たのかもしれません」

「これもお壷さまと、ご先祖さまのお陰なんですよ」

「あ、そうだったんですかー」

ぼくは、妙に納得してしまった。

「じゃ、今度こそ、いいことあるんすかねぇ」

さっきまで入っていたブルーはどこかへ消えていた。

※その後のぼくとお壷さまの関係はというとですね。実は寮が火事になってしまいまして、そのドサクサに紛れてお壺さまはどこかへ行ってしまったのです、はい。きっと土に還ったのでしょう。

火事に遭って、ぼくは思った。

お壷さまのお力で大難を小難にしてくださったのだろうか。とゆーことは、火事で焼け死ぬところだったということなんだろうか。うわぁー、こわいなー。そう考えるとありがたいなー。お壷さまあー。うう……(歓喜の涙)

このように、どこまでもどこまでもプラス思考のたっちゃんだったのである。

だがまてよ。そういえば……

「酒田の大火のときでさえ、私の家だけは燃えなかったんだっス。ホントにお壷さまのお陰だっスぅ」
とかなんとかいう体験談のビデオを見たことがあったような気がするぞ。

この記憶が蘇ってきたのはズーッとあとのことだった。時すでに遅し。

お壷さまに聖なる神秘のパワーを感じて(信じ込まされて)いたぼくは、俗に言う『おつぼさま教』の信者のようなものだった。売った側からすれば、優良顧客になるのだろう。(いいカモという説もある)

その後、『生水』とかいうビンに入った炭酸水を売りにきた。ちなみに "なまみず" とは読まず、せいすいと読む。いかにも胡散臭そうな"聖水"と書くより、生きた水ということで、飲めば元気になりそうなネーミングだ。(どこが!?)
なんでも韓国の有名な鉱泉だそうだ。早速、勧められるままに、サンプルを飲んでみると、
「まずーーーーい!」(こころの叫び)

夏みかんに重曹をつけて食べたときのあの忌まわしい記憶が蘇ってきた。

そう、あれは小学生の時分、重曹をかけすぎた夏みかんを食べ過ぎて、ゲロしてしまった思い出がある。あのいやーな感覚は今でも忘れられない。生水は、あの「しゅわしゅわー」な味そっくりだったのである。

「あんまり、うまいとは思わないっすけど」

「そうですか、最初は皆さん、飲みづらいというんですが、慣れてくると病みつきになるそうですよ。なんといってもミネラル分が豊富、健康にいいですからね」

結局、巧みなトークに畳み込まれて1ダース買うハメになった。

天運守護印三本セット:印鑑トークの実際

註:当時の霊感商法は、訪問販売で印鑑→霊場で壺→マナと呼ばれる高麗人参エキスの順番での販売が一般的だった

しばらくすると今度は、姓名学の先生とやらを突然連れてきた。無料で姓名判断をしてくれるらしい。占いは好きなので断る理由はない。

「こちら、天水先生といわれまして、姓名学の専門家です」

「てんすいです。よろしくお願いします」

男の先生で、黒ぶちの眼鏡をかけたやせこけた貧相な人だった。歯も少し出ている、顔色も悪い。一応スーツは着ているが、襟が汚れているし、ヨレヨレだ。

岩下志麻から、しゃきっとせんかい!などと怒鳴られそうな身なりである。肩に落ちている"フケ"もたっちゃんは見逃さなかった。

ま、人を見かけで判断してはいけないので、いかんいかん、などと反省しながらポジティブシンキングして先生の話を聞く体制を整えた。

で、先生はというと、慣れた手つきで画数をしゅるしゅるさっさとレポート用紙に書きながら、画数の意味なぞを説明しはじめた。ところが画数を目で追っていくと龍の画数がちょっと違っている。十六画のはずなのに十七画と数えている。

「あのぉ、先生、ちょとすみません。たつっていう漢字の画数なんすけど、ちょっとちがうんでないすか」

「あ?どれどれ。いーちにいさんしーいごおろくひちはち……ん?…」

「あ、いや、私の流派はですね、この画数でと、とってるんですよ…ゴホン」

「あぁ、そうなんすか」

どうやら、画数の数え方を先生が間違ったと思ったのはぼくの思い過ごしらしい、流派によって画数の取り方が違うことを知って、ひとつ利口になったような気がした。でも、お壷さまの先生の画数の数え方と違うのはどういうことなのかな?と思ったが深くは考えない様にした。きっとお壷さまの先生とは流派が違うのだろう。

しかし、次の言葉には驚いてしまった。

「たつさん。今、凄い転換期ですねぇ」

「はぁ!?、お壷さまの先生も同じこと、言ってました」

「…殺生因縁と色情因縁と財因縁が出てますね」

「は、あ…」

なんだかお壷さまの先生と似たような話をしているなー、と思った。が深くは考えないことにした。

「姓名の姓という漢字は女から生まれると書きますよね。女から生まれる、つまり姓名は生命、いのちを表しているのです。

たつさんが生まれたのはお父さんとお母さんがいたからですよね。その父母もその父母、つまり祖父母がいたから生まれたわけです。その又父母のまたまた父母と辿っていくと、相当の人数のご先祖さまがおられることがわかると思います。

結果として、たつさんがこの世に生まれたのはご先祖さまという原因があったからですよね。ですから、ご先祖さまのいろいろなものを受け継いでいるのです。

よく、名は体を表すといいますが、名前を見ればご先祖さまのことがわかります。良い種からは良い実がなりますが、悪い種からは悪い実しかできません。

原因がわかれば結果がわかるし結果を見ても、因縁などというと八つ墓村のような恐ろしいイメージを浮かべますが、そうではありません。因縁には良い因縁と悪い因縁があるのです。八つ墓村は悪い因縁の例ですね。

『因縁果報』という言葉を聞いたことがあると思います。『因縁果報』の因は原因の『因』、縁は血統、血縁の『縁』、果は結果の『果』、報は"親の因果が子に報いー"ってありますけど、因果応報の『報』です。原因が結果にあらわれて、報いを生じるということですね。たつさん。どうですか、わかりますか?」

やっぱり、人は見かけによらないものだ。冴えない風貌の先生だったが、しゃべりはじめると、立て板に水の如く流暢に話す。意外に話は上手い。ぐいぐい引き付けられるようだ。

「…ですから、結果としてあらわれた名前を通して、原因である先祖を知ることが出来るのです。画数には吉数と凶数がありますが、吉数が良い因縁を、凶数が悪い因縁を表しています。

たつさんの場合、ほらこの吉数がご先祖さまの功労を表していますから、世のため人のために尽くしたかたがおられるのです。それと、凶数と凶数を結んだこの線。この線ことを因縁線と言って、いろいろな因縁がわかります。これは悪因縁を表しているのです。

たつさんの名前を見ると『殺生因縁と色情因縁と財因縁』が出ていますね。先祖に悪い原因があれば後孫には必ず悪い影響が出てきます。丁度、種と実の関係ですよね。種が悪ければ実も悪いのです。

たつさんの家系はお武家さんの血統なので、人を殺めています。刃物で傷つけてますので、その結果として体にメスが入ったり、脳の血管がぶちぶち切れたりする、ほらちょうど刃物で血管を切ったようになる脳溢血になったりするんですよ…」

そういえば、ぼくは、小学校に上がる前にだっちょうの手術をしているのだ。じいちゃんは脳溢血で亡くなった。当たってる……
おそるべし天水先生。

因縁トーク

それまで、天水先生に対して「サエないせーんせ」などと侮っていたぼくだが、今はもっともっと話を聞きたい気分になっている。…不思議だ。

「それから…お武家さんというとですね、大奥などを代表として、女性関係が大変乱れていますよね。ですから、そこには女性特有の嫉妬や恨みやが渦巻いているのです。いうなれば愛の恨みですよね。このような因縁を色情因縁というのです。

ところで、たつさんの家系には淋しい思いをして亡くなった女性の恨みの念が出ていますね。男からもて遊ばれて捨てられたとか、夫の浮気で離縁したとか…ですね。

また、たつ家の男性も、妾をつくったとか、不倫をしたとか、女遊びをしたとか…そういう家系ですよね。こういう女性の恨みのある血統だと、女系になりやすいんですよ。あるいは、男性の運勢が弱くなるとか、反面、女性が強くなるという結果が現れたりするんですよね」

ぼくはそのことを聞いて青くなった。

「先生!たつ家は、じいちゃんと、とうちゃん、二代続けて婿養子に迎えたんすよ。ぜんぜん、そ、その、じょ女系という家系すっよ!」

「ふむ、やっぱりそうですか…」

と、天水先生。眉間に皺を寄せて難しそうな顔をしている。

「それで、妹が二人いるんすけど、とっても気ぃ強いんすよね…」

あたっているだけに、怖い。じゃあぼくが結婚しても生まれる子供は女の子ばかりなんだろうか。かわいくていいけど、嫁にいったら老夫婦が二人っきりでさびしいだろうなあ。あーいやだないやだな。

「絶家の家系ともいいますよね。男の子が生まれないか、生まれても夭折したり病弱だったりするんですよね」

淡々と天水先生が語る。なにかこう、だんだんえらく見えてきた。キリスト様お釈迦様のようにすがりたくもなってきた。

「霊界は大きく三層に分かれています。一番上が天界といって、義人聖人クラスのイエスキリストやお釈迦さまがおられます。その下が中間霊界、良心家がいくといころなんです。そして一番下が地獄。この世で罪を犯した人がいくのです。

霊界の位置というのは実は自分で決めるんですね。天界はまばゆい光に満ちていて美しくいい香りが漂っています。地獄には閻魔大王はいませんが、暗く寒く異臭がします。皆貪り合っているんです。

たとえばエゴ丸出しで生きてきた人の魂はどす黒く、腐っています。そういう人が、世のため人のために生きてきて輝いている魂のが集まるところにはいづらいのです。場違いなんです。それで、自然と類は友を呼ぶというように、同じような魂が集まってしまうのです。たつさんは死んだらどの霊界にいくと思いますか?」

「んー、そーっすね、ぼくは深夜の交差点で車が通ってなくても、信号が赤だったらキチンと青になるまで待ってるし、40キロ制限道路ならチキンと40キロ速度を守ってますから、世のため人のためになることはしてなくても、人様に迷惑はかけてないんで、中間霊界ってとこすかね?」

ぼくは別に、罪なんて犯していないから、中間霊界にでもいくんだろろうなぁ、などと漠然と思っていたのだ。しかし、天水先生の次の言葉でまたまた青くなった。

「そうですか、中間霊界ですか。でもですね、たつさん。天法といわれる天の法律では色情の罪が一番重いのです。殺人や泥棒よりも罪が重いのです。不純異性交友、いわゆる桃色遊戯ですが、これは完全にひっかかります。

また、フリーセックスや不倫などは相当罪が重いのです。実際、肉体関係を結ばなくても淫らな事を思っても罪になります。
聖書のマタイ書には『情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである』と書いてあります。また『もしあなたの右目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい』とも書いてあります。それくらい色情の罪は思いのです。どうですかたつさん、今まで地獄にいくような罪は犯していませんか」

ひぇー、そんなぁ…頭の中はいつもアチラの妄想で一杯だというのに、これじゃぁ中学時代の同級生はみんな地獄だぞ。

「先生、ぼくはやっぱり地獄っす。ということはご先祖様はみんな地獄なんすか」

「名前に現れた凶数と因縁線をみると、殆どそうですね。ご先祖さまは地獄で苦しんでおられます。もし、生きている間に何が罪なのか知っていれば罪は犯さなかったですよね。でもご先祖さまは知らなかったんです。

ですからこんなはずじゃなかったと、地獄で苦しみもがいておられるのです。救いを求めておられるのです。もし、ここで悪因縁を断ち切らないとたつさんの後孫にも影響が出てきますよ」

「先生!んじゃあどうしたらいいんすか」

「それはですね、お守りを持てばいいんです。因縁が雨のように降り注いでいるわけですから、たとえて言えば雨の時に傘をさすように、それを除ける傘のような役目をするお守りを持つ事が必要なんです。三つの代表的な相、三大相というのを知ってますか」

「いいえ…」

三大相というのは、墓相、家相、印相のことです。お墓の石が欠けたりすると良くないとか、鬼門の方角に便所をつくるのはいけないとか言われますよね。墓相にも家相にも印相にも吉相と凶相があります。良い相は幸せを呼びますが悪い相は不幸を呼び寄せますし、魔に入られてしまうのです。

墓相というのはお墓の向きや形で、氏族を守るものです。家相は間取りのバランスや方角を見ます。表札もそうです。これは家族を守るものです。

印相は個人を守るものですが、名は体を表すというように、自分自身の名前を彫り込んだ印鑑のことです。しかし、いくらお金があるからといって、個人の守りである印相をおろそかにして立派なお墓を作ったり、立派な御殿をつくったりしたらかえってよくないのです。

物事には順序があります。個人の土台をしっかり作ってこそ家族の幸福がありますし、氏族の幸せがあるのです。ですからまず個人の相、印相をよくする事が大事なのです」

「じゃあ、ハンコをつくればいいんすか」

「いえ、ただ単にハンコをつくったからといってよくなるのではありません。私がお勧めするのは"天運守護印"といいまして、私どもの大先生が断食や水行をしながら祈りを込めて彫ってくださるお守りの印鑑なんです。

たつさんの画数、ホラこの画数は凶数ですよね、ここから魔が入ってくるので、この画数を特に運勢を強めて彫るのです。例えば木という漢字は4画で凶数ですが、このように印鑑独特の書体の印相体で彫ると3画になって吉数になるんです。

凶数を吉数に変えて祈りを込めながら彫っていくんですね。ですから大先生が40日40夜、断食や水行と祈とうをされながら彫られるので時間もかかりますし、真心のこもった浄財も必要です」

「俗にいう、魂がこもってるってヤツっすか。でも、ぼくハンコもってるっすよ」

「そうですか、では印相鑑定してあげましょう。ちなみに凶相印というのはですね、小判型つまり楕円ですね、そして色が黒い、めくら判といって腹のところに欠き込みがあるもの、長さが60ミリ以下のものなどです。ちょっと見せてもらえますか」

「…はい、これ中学の卒業式のときもらったヤツなんすけど」

と、手渡したときに、またまたまた青くなった。

「たつさん…これ、凶相印そのまんまですよ」

「しぇー!ありゃー、こんなの持ってたから運勢よくなかったんすね。先生、それじゃ一本いいのつくってください」

「たつさん、その気持ちはわかりますが、"天運守護印"は一本ではだめなんです。それを説明する前に吉相印の条件についてお話します。

まず、印面は正円でなければなりません。何故かというと印面は人生と宇宙を表していて、八方位に対応しています。例えば印面右上は金運を表しています。この所が欠けてる人はお金が貯まらないとか、流れてしまったりといったようなことがおきます。

次に最低三本は必要です。実用的にいえば、実印、銀行印、認印ということですが、三本ということに意味があります。宇宙森羅万象は三数(さんすう)でなりたっています。

例えば、固体、液体、気体の三相とか色や光の三原色とか三度目の正直とか…ですね。また、ものを支えるには最低三点必要ですね。二点ではグラグラしますが三点で安定しますよね。

で、それぞれ彫り方があって、例えば銀行印は財が流れるのを防ぐ意味で横書で彫ります。次に長さですが、最低60ミリ必要です。還暦というものがあるように人生60年を1サイクルとして宇宙の法則は成り立っていますから最低60ミリは必要なのです。

75ミリや90ミリというのもあります。おじいさんの印鑑を譲りうけて彫り直した短い印鑑とか、もともと短いものは短命相というんです。そして、材質は象牙が一番いいんです。象はお釈迦様がお乗りになった神聖な動物といわれています。神仏とご縁を持つ為にも象牙がいいんです」

「はぁー、それじゃ三本セットでいくらくらいするもんなんすか」

「いろいろな種類がありますけど、その人によって違います。たつさんの場合、特に色情の因縁が強いので因縁消滅の祈願をして先生に彫っていただくことになります。たつせいぞうさんの総画数は27ですから、27数以上のものを授かられたらいいですね」

「しぇーっ、そんなするもんすか」

「たつさん、私も授かったんですよ。授かられたらいいですね」

今まで黙っていた、ていうか少しコックリコックリしていた彼女が急にフォローしだした。口と目を半眼にしながらも、時折、眠気を振り払うように天水先生の話にやけに大きな相づちを打っていた彼女だった。が、今こそ私の出番!とばかりに目を輝かせて話し出したのだ。パンフレットをめくりながら

「この福寿印のセットは30万円ですよね、あ、この天慶印は40万円ですよ。たつさんは天慶印なんかいいじゃないですか。40というのは魔を切る数なんですよ。この天宝印は75ミリでとっても立派なんですよ。100万円の多宝印は90ミリで胴の部分に多宝塔が金で象嵌してあるんです、家宝になりますよ…」

などと、すごい金銭感覚の話をする。

「あ、あ、じゃ、この福寿印でいいっすよ。これお願いします。で、彫ってくれる大先生は今どこにいるんすか」

「杉並区、浜田山の天運観相協会というところにおられまして、日夜修行をされておられるんです。橋本研臣(ハシモトケンシン)先生といわれまして、私は大先生の弟子です」

「あ、そうすか。じゃ、よろしく言ってください」

「たつさん、ではこれに書いてもらえますか」

お壷さまの会場で見たのと同じ契約書が彼女の鞄から出てきた。

「大先生が四十日四十夜、祈りを込めながら彫ってくださいますので、お届けできるのは一ヵ月半後くらいになります。また、特に祈願することがありましたら、この用紙に書いてください」

差し出された"天運祈願用紙"なるものに、ぼくはためらわず「お金が貯まりますように」としっかり書いた。三分の一以上入金しないと、印材を仕入れられないというので頭金として10万円を支払い、残りは明日払うことにした。

契約書の控えをもらって、ふーやれやれ、長い話だったがこれでまたいい買い物をしたぞ、天水先生、田中さん「じゃ、どうもぉー」とお別れの挨拶をしようとしたのだが、なにやらまだ話があるらしい。

「それから、たつさん。大先生が四十日四十夜の御祈祷をされている間、初水行(はつみずぎょう)をしていただきたいんです。この2つのグラスに朝一番の水を汲んで、お壷さまの前において手を合わせるんです」

彼女は鞄から半紙に包まれた小さなグラスを差し出した。どうりで女の人の鞄にしてはデカかったわけだ。さっき見た印材の見本とかいろんなものが次から次と出てくる。

「細かい泡粒がコップにつくことがあるんですけど、これは、御先祖さまが喜ばれているときなんですよ」

「へぇーそうなんすかぁ」

「あ、それから、魔に入られない為に、黙示行(もくしぎょう)をやっていただきたいんです。素晴らしい印鑑を授かったのに、人にこのことを話してしまうとせっかく頂いた"徳"を逃がしてしますのです。誰にも話さないというが黙示行なんです」

「んーと、じゃぼくは初水行と黙示行を四十日間やればいいんすね」

「ええ、そうです。頑張ってください」

「じゃ、どーも」

長い話がやっと終わった。ぼくはとうとう豪華な印鑑を買ってしまった!いや、授からせていただいた。懐は淋しくなったけど、これでやっと運勢が上昇するんだ、するんだ、するんだ!と自分に言い聞かせながら寝床についた。

とうとうぼくは、30万円也の福寿印のセットを買ったってしまった。
んー、なんとも誇らしい気分だ。

これでぼくは因縁罪障消滅されるんだ……

つづく……

[出典:サイビジャンキー!霊感商法に魅入られた男: 元統一教会信者『おやぢ』さんが遺した幻のメルマガ『おやぢの独白』復刻シリーズ Kindle版 ⇒ https://amzn.to/3GHlR8c]

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